4. フレームワーク仕様

ここではフレームワークとしてのDialBBの仕様を説明します.Pythonプログラミングの知識がある読者を想定しています.

4.1. 入出力

DialBBのメインモジュールは,クラスAPI(メソッド呼び出し)で,ユーザ発話と付加情報をJSON形式で受けとり,システム発話と付加情報をJSON形式で返します.

メインモジュールは,ブロックを順に呼び出すことによって動作します.各ブロックはJSON形式(pythonの辞書型)のデータを受け取り,JSON形式のデータを返します.

各ブロックのクラスや入出力仕様はアプリケーション毎のコンフィギュレーションファイルで規定します.

4.1.1. DialogueProcessorクラス

アプリケーションの作成は,dialbb.main.DialogueProcessorクラスのオブジェクトを作成することで行います.

これは以下の手順で行います.

  • DialBBがGitHubのREADMEに従いpipでインストールされているか,dialbbがモジュール検索パスにあるとします.

  • DialBBを利用するアプリケーションの中で,以下のようにDialogueProcessorのインスタンスを作成し,processメソッド[1]を呼び出します.

    from dialbb.main import DialogueProcessor
    dialogue_processor = DialogueProcessor(<コンフィギュレーションファイル> <追加のコンフィギュレーション>)
    response = dialogue_processor.process(<リクエスト>, initial=True)  # 対話セッション開始時
    response = dialogue_processor.process(<リクエスト>) # セッション継続時
    

    <追加のコンフィギュレーション>は,以下のような辞書形式のデータで,keyは文字列でなければなりません.

    {
      "<key1>": <value1>,
      "<key2>": <value2>,
      ...
    }
    

    これは,コンフィギュレーションファイルから読み込んだデータに追加して用いられます.もし,コンフィギュレーションファイルと追加のコンフィギュレーションで同じkeyが用いられていた場合,追加のコンフィギュレーションの値が用いられます.

    <リクエスト>response(レスポンス)は辞書型のデータで,以下で説明します.

    DialogueProcessor.processスレッドセーフではありません.

4.1.2. リクエスト

4.1.2.1. セッション開始時

以下の形のJSONです.

{
  "user_id": <ユーザID: 文字列>,
  "aux_data": <補助データ: オブジェクト(値の型は任意)>
}
  • user_idは必須で,aux_dataは任意です.

  • <ユーザID>はユーザに関するユニークなIDです. 同じユーザが何度も対話する際に,以前の対話の内容をアプリが覚えておくために用います.

  • <補助データ>は,クライアントの状態をアプリに送信するために用います.JSONオブジェクトで,内容はアプリ毎に決めます.

4.1.2.2. セッション開始後

以下の形のJSONです.

{
  "user_id": <ユーザID: 文字列>,
  "session_id": <セッションID: 文字列>,
  "user_utterance": <ユーザ発話文字列: 文字列>,
  "aux_data":<補助データ: オブジェクト (値の型は任意>
}
  • user_id, session_id, user_utteranceは必須.aux_dataは任意です.

  • <セッションID>は,サーバのレスポンスに含まれているセッションIDです.

  • <ユーザ発話文字列>は,ユーザが入力した発話文字列です.

4.1.3. レスポンス

{
  "session_id":<セッションID: 文字列>,
  "system_utterance": <システム発話文字列: 文字列>, 
  "user_id":<ユーザID: 文字列>, 
  "final": <対話終了フラグ: ブール値> 
  "aux_data":<補助データ: オブジェクト(値の型は任意>
}
  • <セッションID>は,対話のセッションのIDです.対話開始のリクエストを送信した際に新しいセッションIDが生成されます.

  • <システム発話文字列>は,システムの発話です.

  • <ユーザID>は,リクエストで送られたユーザのIDです.

  • <対話終了フラグ>は,対話が終了したかどうかを表すブール値です.

  • <補助データ>は,対話アプリがクライアントに送信するデータです.サーバの状態などを送信するのに使います.

4.2. WebAPI

アプリケーションにWebAPI経由でアクセスすることもできます.

4.2.1. サーバの起動

DialBBがGitHubのREADMEに従いpipでインストールされていることを前提とします.

以下のコマンドで起動します.

$ dialbb-server [--port <port>] <config file>

port(ポート番号)のデフォルトは8080です.

4.2.2. クライアントからの接続(セッションの開始時)

  • URI

    http://<server>:<port>/init
    
  • リクエストヘッダ

    Content-Type: application/json
    
  • リクエストボディ

    クラスAPIの場合のリクエストと同じJSON形式のデータです.

  • レスポンス

    クラスAPIの場合のレスポンスと同じJSON形式のデータです.

4.2.3. クライアントからの接続(セッション開始後)

  • URI

    http://<server>:<port>/dialogue
    
  • リクエストヘッダ

    Content-Type: application/json
    
  • リクエストボディ

    クラスAPIの場合のリクエストと同じJSON形式のデータです.

  • レスポンス

    クラスAPIの場合のレスポンスと同じJSON形式のデータです.

4.3. コンフィギュレーション

コンフィギュレーションは辞書形式のデータで,yamlファイルで与えることを前提としています.

コンフィギュレーションに必ず必要なのはblocks要素のみです.blocks要素は,各ブロックがどのようなものかを規定するもの(これをブロックコンフィギュレーションと呼びます)のリストで,以下のような形をしています.

blocks:
  - <ブロックコンフィギュレーション>
  - <ブロックコンフィギュレーション>
  ...
  - <ブロックコンフィギュレーション>

各ブロックコンフィギュレーションの必須要素は以下です.

  • name

    ブロックの名前.ログで用いられます.

  • block_class

    ブロックのクラス名です.モジュールを検索するパス(sys.pathの要素の一つ.環境変数PYTHONPATHで設定するパスはこれに含まれます)からの相対で記述します.

    コンフィギュレーションファイルのあるディレクトリは,モジュールが検索されるパス(sys.pathの要素)に自動的に登録されます.

    組み込みクラスは,dialbb.builtin_blocks.<モジュール名>.<クラス名>の形で指定してください.dialbb.builtin_blocksからの相対パスでも書けますが,非推奨です.

  • input

    メインモジュールからブロックへの入力を規定します.辞書型のデータで,keyがブロック内での参照に用いられ,valueがblackboard(メインモジュールで保持されるデータ)での参照に用いられます.例えば,

    input: 
      sentence: canonicalized_user_utterance
    

    のように指定されていたとすると,ブロック内でinput['sentence']で参照できるものは,メインモジュールのblackboard['canonicalized_user_utterance']です.

    指定されたキーがblackboardにない場合,該当するinputの要素はNoneになります.

  • output

    ブロックからメインモジュールへの出力を規定します.input同様,辞書型のデータで,keyがブロック内での参照に用いられ,valueがblackboardでの参照に用いられます.

    output:
      output_text: system_utterance
    

    の場合,ブロックからの出力をoutputとすると,

      blackboard['system_utterance'] = output['output_text']
    

    の処理が行われます.blackboardがすでにsystem_utteranceをキーとして持っていた場合は,その値は上書きされます.

4.4. ブロックの自作方法

開発者は自分でブロックを作成することができます.

ブロックのクラスはdiabb.abstract_block.AbstractBlockの子孫クラスでないといけません.

4.4.1. 実装すべきメソッド

  • __init__(self, *args)

    コンストラクタです.以下のように定義します.

    def __init__(self, *args):
     
         super().__init__(*args)
     
         <このブロック独自の処理>
    
  • process(self, input: Dict[str, Any], session_id: str = False) -> Dict[str, Any]

    入力inputを処理し,出力を返します.入力,出力とメインモジュールのblackboardの関係はコンフィギュレーションで規定されます(4.3 章を参照). session_idはメインモジュールから渡される文字列で,対話のセッション毎にユニークなものです.

4.4.2. 利用できる変数

  • self.config (辞書型)

    コンフィギュレーションの内容を辞書型データにしたものです.これを参照することで,独自に付け加えた要素を読みこむことが可能です.

  • self.block_config (辞書型)

    ブロックコンフィギュレーションの内容を辞書型データにしたものです.これを参照することで,独自に付け加えた要素を読みこむことが可能です.

  • self.name (文字列)

    コンフィギュレーションに書いてあるブロックの名前です.

  • self.config_dir (文字列)

    コンフィギュレーションファイルのあるディレクトリです.アプリケーションディレクトリと呼ぶこともあります.

4.4.3. 利用できるメソッド

以下のロギングメソッドが利用できます.

  • log_debug(self, message: str, session_id: str = "unknown")

    標準エラー出力にdebugレベルのログを出力します. session_idにセッションIDを指定するとログに含めることができます.

  • log_info(self, message: str, session_id: str = "unknown")

    標準エラー出力にinfoレベルのログを出力します.

  • log_warning(self, message: str, session_id: str = "unknown")

    標準エラー出力にwarningレベルのログを出力します.

  • log_error(self, message: str, session_id: str = "unknown")

    標準エラー出力にerrorレベルのログを出力します.

4.5. デバッグモード

Python起動時の環境変数 DIALBB_DEBUGの値がyes (大文字小文字は問わない)の時,デバッグモードで動作します.この時,dialbb.main.DEBUGの値がTrueになります.アプリ開発者が作成するブロックの中でもこの値を参照することができます.

dialbb.main.DEBUGTrueの場合,ロギングレベルはdebugに設定され,その他の場合はinfoに設定されます.

4.6. テストシナリオを用いたテスト

以下のコマンドでテストシナリオを用いたテストができます.

$ python dialbb/util/test.py <アプリケーションコンフィギュレーションファイル> \
  <テストシナリオ> [--output <出力ファイル>]

テストシナリオは以下の形式のテキストファイルです.

<対話の区切り>
System: <システム発話>
User: <ユーザ発話>
System: <システム発話>
User: <ユーザ発話>
...
System: <システム発話>
User: <ユーザ発話>
System: <システム発話>
<対話の区切り>
System: <システム発話>
User: <ユーザ発話>
System: <システム発話>
User: <ユーザ発話>
...
System: <システム発話>
User: <ユーザ発話>
System: <システム発話>
<対話の区切り>
...

<対話の区切り>は,"----init"で始まる文字列です.

テストスクリプトは,<ユーザ発話>を順番にアプリケーションに入力して,システム発話を受け取ります.システム発話がスクリプトのシステム発話と異なる場合はwarningを出します.テストが終了すると,出力されたシステム発話を含め,テストシナリオと同じ形式で対話を出力することができます.テストシナリオと出力ファイルを比較することで,応答の変化を調べることができます.

4.7. テストリクエストを用いたテスト

テストシナリオを用いたテストではaux_dataを入力できません.aux_dataを入力するテストを行うには,テストリクエストを用いたテストを行います.

以下のコマンドで実行します.

$ python dialbb/util/send_test_requests.py <アプリケーションコンフィギュレーションファイル> \             <テストリクエストファイル>

テストリクエストファイルは以下の形式のJSONファイルです.

[
    [
      <最初のセッションの最初の入力>, 
      <最初のセッションの2番目の入力>, 
      ...
    ],
    [
      <2番目のセッションの最初の入力>, 
      <2番目のセッションの2番目の入力>, 
      ...
    ], 
    ...
]

各入力は,以下の形をしています.

  • 各セッションの最初の入力(aux_dataがない場合)

    { "user_id": <ユーザID>}
    
  • 各セッションの最初の入力(aux_dataがある場合)

    { 
        "user_id": <ユーザID>, 
        "aux_data": <aux_dataの値(辞書)>
    }
    
  • 2番目以降の入力(aux_dataがない場合)

    {  
        "user_id": <ユーザID>,
        "user_utterance": "<ユーザ発話テキスト>"
    }
    
  • 2番目以降の入力(aux_dataがある場合)

    { 
        "user_id": <ユーザID>,
        "user_utterance": "<ユーザ発話テキスト>",
        "aux_data": <aux_dataの値(辞書)>
    }
    

各セッション最初の入力はそのまま,2番目以降はsession_idが付加されてDialBBアプリケーションに入力されます.

user_idは省略しても構いません.その場合,各セッションの最初の入力は,aux_dataがない場合,空辞書になります.